「東日本大震災からの復旧・復興事業における入札不調につ
いて」に関する会計検査の結果についての報告書(要旨)
平 成 2 5 年 7 月
1 検査の背景
東日本大震災に係る復旧・復興事業の早期の実施が求められている中、地震及び津波
により甚大な被害を受けた岩手県、宮城県及び福島県(以下「東北3県」という )にお。
ける復旧・復興事業に係る工事において、入札不調が発生している。そして、今後も多
額の復旧・復興事業の実施が見込まれていることから、入札不調の発生を抑制し、速や
かに復旧・復興事業が実施されることが重要である。
(1) 検査の観点及び着眼点
会計検査院は、効率性、有効性等の観点から、直轄事業及び補助事業に係る工事の
入札等において、入札不調はどの程度発生しており、その原因は何か、国が講じてい
る入札不調対策は事業主体にどの程度導入されているか、また、入札不調対策は入札
不調の発生を抑制するために効果的なものとなっているかなどに着眼して検査を行っ
た。
(2) 検査の対象及び方法
検査に当たっては、東北地方整備局及び東北農政局並びに東北3県及び管内の太平洋
沿岸部13市町、内陸部8市、計21市町において、平成23年10月から24年9月までに入札
(注1) (注2)
、 に付すなどされた復旧・復興事業等に係る予定価格が1000万円以上の工事計4,538件
契約金額計5622億9170万余円について、入札不調の発生状況の分析を行うとともに、
入札公告等の関係書類を確認するなどして、会計実地検査を行った。また、国土交通
省及び農林水産省において、入札不調対策の取組状況を聴取するなどして、会計実地
検査を行った。
さらに、受注者側が入札への参加を見合わせるなどした理由等について実態を把握
するために、東北3県及び近隣の青森県、秋田県及び山形県(以下「近隣3県」とい
う )に所在する建設事業者3,000者に対して質問票による意識調査を行った。。
(注1) 太平洋沿岸部13市町 宮古、大船渡、陸前高田、釜石、仙台、石巻、
気仙沼、名取、いわき、相馬各市、山田、南三陸、新地各町
(注2) 内陸部8市 一関、奥州、白石、登米、福島、郡山、白河、須賀川各市
2 検査の状況
(1) 入札不調の発生状況等
0 100 200 300 400 500 600 700 800
0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% 40.0%
直轄 東北3県 21市町
発生割合 入札件数(件)
直轄 東北3県 21市町 (入札不調発生割合)
(入札件数)
平成 23年
10月 11月 12月
24年
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月
直轄 76 64 36 49 166 223 35 41 90 86 116 141
東北3県 175 183 140 108 226 317 48 81 142 145 161 127
21市町 178 175 182 130 158 181 38 74 145 106 102 93
入 札 件 数
23年10月から24年9月までに入札に付すなどされた復旧・復興事業等に係る工事の
入札不調の発生割合は、直轄事業と補助事業を合わせて件数で21.1%となっていた。
また、事業主体別に発生割合の推移についてみると、次図のとおり、東北地方整備
局、東北農政局及び東北3県については、24年2月から同年5月にかけて15%以下まで
一旦低くなっている期間もあるが、その後、同年6月頃から増加している。また、2
1市町については、20%以上で推移している。
図 入札不調の発生割合等の推移(平成23年10月から24年9月まで)
イ 入札不調が発生することによる工事の遅延状況
入札不調が発生した場合には、事業主体の発注担当者は再度公告を行い入札を実
施するまでに工事内容等の見直しなどのために相応の時間を要することになるが、
東北3県等の入札不調が発生した工事において確認できた267件についてみると、当
初入札日から再度公告を行い入札を実施する日までの期間等が3か月を超えている工
事は59件、このうち6か月を超えている工事は9件となっていた。
(2) 東北3県における労働者、建設資材の需給の動向等
東北3県においては、震災後、鉄筋工、型枠工等の技能者等が不足して、賃金に変動
が見受けられるとされ、公共工事の予定価格の積算に必要な設計労務単価が上がった
り、生コンクリート等の建設資材の需給がひっ迫して価格が上昇したりしていた。..
国土交通省及び農林水産省は、表1のとおり、技術者や技能者を確保したり、予定価
格を適切に算定したりするための入札不調対策を講じ、東北地方整備局、東北農政局、
東北3県等に対して、通知等を発出して周知している。
表1 入札不調対策の概要
目的 入札不調対策 入札不調対策の内容
技術者や ①復興JV制度の活用 被災地域の地元の建設事業者が被災地域外の建設事業者と結成する
技能者の 共同企業体が入札に参加できるとしたもの
確保のた めの対策
②1人の主任技術者が管理できる近 1人の専任の主任技術者が原則2件程度の工事を管理することができ
接工事等の明確化 ることとしたもの
予定価格 ③実勢価格を反映した公共工事設 公共工事の設計労務単価について、労働市場の実勢価格を反映させ 等の適切 計労務単価の設定 ることに加えて、被災地等の入札不調の抑制のために単価を引き上
な算定の げるなどしたもの
ための対
策 ④急激な物価変動に伴う請負代金 工期内に急激な物価変動を生じた場合に、受注者が請負代金額の増 額の変更(インフレスライド) 額変更を請求することができるなどとしたもの
⑤急激な物価変動に伴う請負代金 工期内に主要な工事材料の価格が著しい変動を生じた場合に、受注 額の変更(単品スライド) 者が請負代金額の増額変更を請求することができるなどとしたもの
⑥発注ロットの拡大を踏まえた間 工事箇所が複数ある工事については、市町村より狭い範囲で工事箇 接工事費の算出、点在する工事 所を設定して、この工事箇所ごとに間接工事費を算定できるとした 箇所ごとの工事費の算定 もの
⑦被災地以外からの技術者・技能 技術者・技能者に係る宿泊費等にかい離が生ずることが想定される ..
者の確保に要する追加費用への として、現行の積算基準により算定される共通仮設費率等に補正係
対応 数を乗ずることにより対応することとしたもの
⑧宿泊等に係る間接費の設計変更 東北3県以外からの技術者・技能者確保が更に必要になる場合が想
の導入 定されるとして、技術者・技能者確保に要する方策に変更があった
場合に必要となる宿泊費等について、設計変更により対応すること としたもの
⑨建設資材の遠隔地からの調達に 一部の建設資材について、工事実施段階において当初の調達条件に 伴う設計変更の導入 より難い場合に、輸送費、購入費等について、設計変更により対応
することとしたもの
(4) 入札不調対策の導入状況、活用実績等
ア 事業主体における入札不調対策の導入状況及び活用実績
事業主体別に入札不調対策の導入状況及び活用実績についてみると、表2のとおり、
東北地方整備局、東北農政局及び東北3県についてはほとんどの対策は導入されて活
用されているが、一部の市町については導入されていない対策も見受けられた。ま
表2 各事業主体における国の入札不調対策の導入状況及び活用実績
イ 復興JV制度の活用
被災地で不足する技術者や技能者を広域的な観点から確保するための復興JV制
度については、同制度が試行されてから1年以上が経過しているが、東北地方整備局
においては、復興JVを対象として入札が行われた工事件数63件のうち復興JVが
入札に参加した工事件数は9件となっており、また、東北農政局においては、これま
で復興JVが参加できる入札を行っていなかった。
(5) 事業主体における独自の入札不調対策
ア 入札参加資格の緩和
①復興J V制度の 活用
②1人の 主任技術 者が管理 できる近 接工事等 の明確化
③実勢価 格を反映 した公共 工事設計 労務単価 の設定
④急激な 物価変動 に伴う請 負代金額 の変更 (インフ レスライ ド)
⑤急激な 物価変動 に伴う請 負代金額 の変更 (単品ス ライド)
⑥発注 ロットの 拡大を踏 まえた間 接工事費 の算出、 点在する 工事箇所 ごとの工 事費の算 定
⑦被災地 以外から の技術 者・技能 者の確保 に要する 追加費用 への対応
⑧宿泊等 に係る間 接費の設 計変更の 導入
⑨建設資 材の遠隔 地からの 調達に伴 う設計変 更の導入
○ △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
△ ○ ○ △ △ △ ○ ○ ○
○ ○ ○ △ △ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ △ ○ ○ ○ △
宮古市 × ○ ○ △ △ ○ ○ △ △
大船渡市 × ○ ○ △ △ ○ ○ × △
陸前高田市 × × ○ △ △ × ○ △ ○
釜石市 × △ ○ △ ○ ○ △ △ △
山田町 × ○ ○ △ △ △ × × ×
一関市 × × ○ △ △ △ ○ × ×
奥州市 × ○ ○ △ △ × × × ×
仙台市 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
石巻市 ○ ○ ○ ○ △ ○ ○ ○ ○
気仙沼市 × △ ○ △ △ ○ ○ ○ △
名取市 × ○ ○ △ △ ○ ○ △ △
南三陸町 × ○ ○ △ △ ○ ○ △ ×
白石市 × ○ ○ △ △ × ○ × ×
登米市 × ○ ○ ○ △ ○ ○ △ △
いわき市 × ○ ○ △ △ △ ○ △ △
相馬市 × ○ ○ △ △ △ △ △ △
新地町 × △ ○ △ × △ △ × △
福島市 × △ ○ △ △ × ○ × ×
郡山市 × △ ○ △ ○ △ △ △ △
白河市 × △ ○ △ △ △ × △ ×
須賀川市 × ○ ○ △ △ △ △ × △
○ (A) 6 17 26 6 5 13 18 8 7
△ (B) 1 7 0 20 20 9 5 10 12
× 19 2 0 0 1 4 3 8 7
26.9% 92.3% 100.0% 100.0% 96.1% 84.6% 88.4% 69.2% 73.0%
85.7% 70.8% 100.0% 23.0% 20.0% 59.0% 78.2% 44.4% 36.8%
注(1) 平成25年3月現在の状況である。
注(2) 「○」は導入済みで活用実績があるもの、「△」は導入済みであるが活用実績がないもの、「×」は導入 していないものである。
宮城県
福島県
計26事 業主体
導入率((A+B)/26)
活用率(A/(A+B)) 岩手県
事業主体
入札不調対策
事業主体の中には、入札不調対策として当初の入札から建設事業者の事業所の所
在地を一定の地域内に限定する地域要件、施工実績要件及び等級要件の緩和を行っ
ている事例が見受けられた。
イ 建設資材の不足に対する事業主体の対策
東北3県の沿岸部における25年度から28年度までの生コンクリートの需要予測によ
ると、需要量が供給可能量を大幅に上回る地区が見受けられ、事業主体の中には、
建設事業者が二次製品を活用したり、骨材を遠隔地から調達したりするようにする
などの取組を行っている事例が見受けられた。
(6) 入札不調対策等に対する意識調査
これまで講じられた入札不調対策の効果を検証して、その結果によっては更なる対
策を講ずるよう検討することも必要であるが、その際に、受注者となる建設事業者に
おいて、どのような意識を持っているのかなどを把握しておくことも重要であること
から、東北3県及び近隣3県の各県の登録建設事業者3,000者に対して25年4月に質問票
により復旧・復興事業に係る工事の入札不調対策等に対する意識調査を実施したとこ
ろ、次のとおりとなっていた。
ア 東北3県の建設事業者において、入札参加資格があるのに一般競争入札への参加
を見合わせるなどしたことがあるとした者は7割程度となっており、その理由は自
社の技術者が手一杯であるとした者が7割超と相当の割合を占めるなど労働者関係
の理由が大半を占めていた。
イ 受注後に費用が増加し赤字になるという建設事業者の懸念を払拭するための建設
資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入等の対策について、知らないとして
いる者が東北3県の建設事業者において5割程度、近隣3県の建設事業者において6割
を超えていた。
ウ 東北3県の建設事業者において、国が講じている入札不調対策について、効果が
あるとやや効果があるとを合わせた者が復興JV制度については4割程度となって
いる一方で、急激な物価変動に伴う請負代金額の変更、建設資材の遠隔地からの調
達に伴う設計変更の導入等のその他の対策については6割程度となっていた。
エ 東北3県の建設事業者において受注余力がないなどとしている者が5割程度を占め
ており、また、近隣3県の建設事業者の5割程度は復旧・復興事業に係る工事への参
オ 東北3県の建設事業者において、入札参加資格の緩和について、賛成と災害復旧
事業に限定するなどの条件付きで賛成とを合わせた者が5割を超えていた。
3 所見
東日本大震災の被災地では、速やかな復旧・復興が待ち望まれているが、東北3県にお
ける復旧・復興事業に係る工事において、技術者、技能者等の人材、砂、砕石、生コン
クリート等の建設資材の不足が生ずることなどにより、入札不調が高い割合で発生して
いる。さらに、同一の工事について、入札不調が繰り返されることにより発注担当者の
業務量が増えることはもとより、工事の完成が遅れることも懸念される。
これに対して、事業主体は、国土交通省及び農林水産省から発出された通知等を受け
て、入札不調を解消すべく各種の対策を実施しているが、東北3県においては、海岸、河
川、下水道等の災害復旧事業に加えて、住民の生活に直結する仮設住宅の入居者等のた
めの災害公営住宅の整備、三陸沿岸道路の整備等の復興事業が予定されており、これら
を合わせると27年度までの集中復興期間を中心に工事の発注量が膨大なものになること
が見込まれることから、今後の発注量の増加等に伴い入札不調の割合は高水準で推移す
るおそれがある。
一方、復旧・復興事業の財源は、国民の税金をもって賄われるものであることから、
事業の効率性、有効性等にも配慮をしつつ進めることが必要である。
以上の検査の状況を踏まえて、国土交通省及び農林水産省において、引き続き、次の
点に留意して、入札不調に対して実効性のある対策を講ずることにより、円滑かつ迅速
な復旧・復興事業の実施に努める必要がある。
ア 被災地の雇用を維持しつつ広域的な観点から技術者等の確保を図るための復興JV
制度が更に活用されるよう、入札不調の発生状況等に応じて復興JVを対象とする入
札件数を増やすことなどを検討する。
イ 建設資材について、引き続き需給の動向の把握に努めるとともに、ひっ迫の程度に
応じて供給量の増大や広域的調達等が図られるよう適切に対策を検討する。
ウ 地方公共団体に対して次のような要請等を行う。
(ア) 東北3県において、実施している入札不調対策を管内に所在する建設事業者に周知
したり、国の示した入札不調対策をいまだ導入していない管内の市町村に改めて周
(イ) 近隣3県において、被災地において実施している入札不調対策を管内に所在する建
設事業者に周知する。
エ 東北3県及び管内の市町村において、復旧・復興事業に係る工事を発注する際に、工
事の品質を確保しつつより多くの建設事業者の参入が容易になるよう、地域の実情等
に応じて、地域要件、施工実績要件又は等級要件を緩和している事例等を参考にする
よう連絡協議会等において情報提供を行う。
会計検査院としては、27年度までの集中復興期間において復旧・復興事業に係る相当
、 量の工事の発注が続く見込みであることから、東北3県における入札不調の状況の推移